朝。まだ日が昇りきらぬ時間からルキアは一人で庭に立っていた。
一晩中降り積もった深雪に足を下ろすと「さく」と軽い音がする。まさしく身を切るような冷たさが足裏から伝わり、全身が寒さで震える。息は吐いた瞬間に真白に消え、代わりに冷たい空気が肺を満たす。
薄暗い中で雪がきらきらと目を焼く。耳が痛いほどの無音の中で、ただ呼吸をする。
いきている。
頭の中で声がする。
いきている。わたしはいきているのだ。
足裏が冷たい。指先が悴み、肩ががくがくと震えている。けれども生きている。胸のざわめきはそれだ。
大きな瞳からぽたぽたと涙が零れた。その涙さえ凍りついて氷柱となろうという寒さの中で、ルキアは一人呟く。
おめでとう、と。





(朽木さん。お誕生日、おめでとう!)
(朽木、誕生日おめでとう。)
(ルキアさん、お誕生日おめでとうございます!)
(誕生日おめでとう、朽木。)
(ルキアちゃん、おたんじょうびおめでとー!)

「――――……、ルキア」

ルキアは瞬きをした。
目の前には大きな花束とお菓子の包みや簪、扇子などの小物の入った黒塗りの箱が置いてある。
そして目を引く、ホールケーキ。たっぷりの果物と生クリーム、名前の書かれた板チョコ。規則正しく間隔を開けて立てられている、色とりどりのキャンドル。全てはルキアのものである。

「どうしたの」
「え?」
「ぼーっとしてたよ。疲れた?」
「いや、……そうだな。今日は色んな人から色んなものをもらったからな」

ルキアがふふっと笑うと、ケーキにキャンドルを刺す手が止まる。

「…他の人の贈り物なか捨てちゃえばいいのに」
「うん?何か言ったか?」
「何でもない」

燐寸で一つずつ点されてゆくキャンドル。

「じゃ、ふーってして」
「吹き消すのか?」
「そうだよ。もちろ一発でね」
「そうなのか……」

やや不安そうなルキアだが、思い切り息を吸い込んで、拳をぎゅっと握って、また思い切り吹く。
キャンドルの灯はちらちらと揺れ、消えてゆく。少し危ないものもあったが一応一度で全て消えた。どんなものかとちょっと得意げにすると、くすくす笑い声が聞こえた。

「何だ」
「そんなに大変だった? 拳まで作っちゃってさ」
「…念の為だ。さあ、食べよう」

照れ隠しのためにややつっけどんどんに言ってナイフを取る。

「あ、いいよ。私がやる。君はこれでも食べといて」

と、唇にふにゃっと当たったのは名前の書かれた板チョコだ。思わず指で受け取って食べる。口に広がるビターな味わい。ルキアは口を尖らせる。う、美味いではないか……。
きっと現世の名の知れた店のものなのだろう。
ルキアがチョコを食べきる。同時に、ナイフにたっぷり付いた生クリームを指で拭い、差し出す。

「?」
「君の為だもの。とびきり美味しいものを用意しなくちゃ」

……そのクリームの付いた、唇もおいしそう。
熟れた果実に二人は喉を鳴らした。











2013.ルキアちゃんおめでとう。