イヅルはベッドの上で一人本を読んでいた。けれど内容は頭に入ってこない。とりあえず気を落ち着かせるためのものにしか過ぎないからだ。
きっと今頃、ルキアは浴室でシャワーを浴びている。
そう考えると悶々として目が冴える。

「…別に裸くらい見たことあるし」

思春期が訪れるまで、二人は互いの家に泊まりあいこをしていた。風呂も一緒に入っていた。もちろん風呂では裸になる。
もしルキアが拒否すればイヅルはそれに従うつもりだ。まだ高校生にもなっていない女の子に無理矢理致すような趣味はない。あくまでルキアが拒否すれば、の話だが。
若さの盛りであるイヅルはこのことをひたすら悩んでいた。拒否された場合、どう処理しようかと。方法としてはルキアより早起きして手洗いでこっそりするくらいしかない。
いくら性教育を受けているとはいえ、純粋な彼女のことだから現実に男のそれを見てしまった場合、ショックを受けるかもしれない。やっぱり手洗いでするしかない。
溜め息を吐いていると部屋のドアがノックされた。
顔を上げると、白いネグリジェを着たルキアが立っていた。随分とらしくないものを着ている。

「どうしたの、それ」
「上がったら、これが脱衣所に置かれていた…」
「え?」

誰かが妙に気を利かせたようだ。本人も恥じらっている。イヅルは本を閉じて衣装箪笥に向かった。取り出したのは一枚のシャツだ。

「嫌ならこれ着てて。大きいけど」
「でも皺になる…」
「いいよ別に。シャツくらい沢山あるから」

じゃあ、とルキアはシャツを受け取った。
数分後、ぶかぶかのシャツを着たルキアが再び寝室にやってきた。

「やはり大きいな」
「仕方ないよ。身長差結構あるし」

平静を装ってイヅルは言う。しかしその胸の内には情欲がふつふつと滾り始めていた。
袖から覗く小さな指。裾が長いので下着は見えないが、白い太ももが露わになっている。
まだ発展途上の身体だが、そそる。
幼い頃に見た身体とは随分異なっている。微かに膨らんだ胸。腕の中にすっぽりと収まってしまいそうなくびれ。細い腰。

とりあえずベッドに腰を下ろす二人を、沈黙が包む。話題は沢山ある。けれど唇が動かない。

イヅルは思い切って切り出した。

「嫌ならはっきり言ってね」

ルキアが目を大きく見開いた。これからの事を明らかにされて戸惑っているようだ。無理もない。
だがこれは互いの為である。

「君が嫌なら僕はしない。それだけだ」
「…でも、いつかはしないといけないのだろう?」

イヅルは小さく頷いた。堅い口調とは裏腹にルキアの声は微かに震えていた。一度瞬きをして、ゆっくりと息を吐いた。
そして、おずおずとイヅルの手を握った。
いいの? と視線で問うとこくりと頷く。
愛らしい。その一言だけだった。
イヅルもそっと手を握る。にじり寄って屈む。
重ねた唇の隙間から緊張した息遣いが聞こえてきた。
繋いだ手から激しい鼓動が伝わる。

「…大丈夫?」
「だ、いじょうぶだ」

どこが大丈夫なんだか。少し呆れながらも、イヅルは優しくルキアを押し倒す。艶やかな黒髪がシーツに広がり、思わず手を伸ばす。久しぶりに触れた髪は絹のように柔らかい。
ぎゅっと目を閉じて、口付けを繰り返す。薄目を開けているイヅルからすればルキアの様子は少し滑稽に見えた。

「イ、ヅル兄さん」
「なに?」
「ぎゅって、して」

夫婦になったというのに兄さんと呼ばれたことよりも、甘えられたことの方が衝撃が大きかった。
ぽかんとしながらも、イヅルはそっとルキアを抱きしめた。ルキアの身体は小さかった。押しつぶしてしまいそうなくらいに。

「兄さん」
「なに?」
「…好き」

それはイヅルが十八年間生きてきた中で初めて言われた言葉だった。
胸に湧く、愛しさ。
背中に手が回って、抱き締められる。
二人は自然と唇を重ねた。
拙い、けれど初心な二人を蕩けさせるには十分な口付けだった。
イヅルは一つずつ、ルキアのシャツのボタンを外していく。少しずつ肢体が露わになってゆく。
傷一つないきれいな体。イヅルはルキアのはだけた胸元に唇を押し付けた。軽く吸って離すと、ほんのりと赤い痕が残る。
目を白黒させるルキアにイヅルは微笑む。

「今の…」
「ああ、キスマークってやつだよ」
「えっ!?」
「大丈夫。明日の昼頃には消えているよ」

果たして本当に明日の昼頃に消えているだろうか? 当てずっぽうで言ったので真偽は分からない。出来れば消えないでいて欲しいと思うのは独占欲の表れか。
そのままイヅルはルキアの胸へ舌を伸ばした。舌先が軽く触れただけで、ルキアはびくりと身体を震わせる。

「に、ぃさん…っ」

戸惑う声を聞きながらイヅルはルキアの胸の飾りを口に含んだ。さくらんぼのような淡い蕾を舌先で弄ぶ。もう片方の蕾も指で弄り、じわじわと快楽を覚えさせていく。

「あ、ぁ…に、さん…」

ひく、とルキアの足先が動いた。感じてはいるようだ。少しずつ固くなっていく飾り。軽く吸ってやると、膝が立ち上がってイヅルを捕まえる。いやいやと頭を振るが、男から見ればそれは催促にしか見えない。

「大丈夫。恥ずかしがらなくてもいいよ」
「でも…っ」
「十分可愛いんだから気にしないで」

イヅルはこの日まで女の肌を知らないまま生きてきた。ルキアというものがいるので他の女に興味が持てず、付き合うどころか友達にもなっていない。これだけ優しいことを言うのも彼女だから。
イヅルはまた口付けた。下手なりに気持ちよくなってもらいたいから必死に頑張っている。
どうか、分かって。僕の気持ち。

「ん、ぅ…っ」
「好きだよ。ルキア」
「っふ」
「好き…」

さっき囁かれた分を返すように、イヅルは口付けの合間に何度も呟いた。ぎこちなく応えてくる舌を絡め、口端から唾液が零れるまではしたなく求め合う。
いつのまにか二人は汗まみれになっていた。全部溶けて、一つになろう。
唾液を指で掬い取り、そのままルキアの下腹部に持って行く。体を割り込ませているのでルキアは脚を閉じることが出来ない。

「っ! やだ…兄さん、やだ…」
「怖い?」
「やだ…兄さん!」
「大丈夫、力を抜いて…」

口付けを交わして意識を逸らしながら、イヅルはルキアの陰部に指を一本差し込んだ。やはり狭い。ある程度予想はしていたが……。
泣きじゃくるルキアを宥め、何とか一本だけでも動かそうとする。しかしルキアのそこは狭く、締まっていた。
……仕方がない。
突然自分の上から退いたイヅルに驚いたルキアだが、小さく声を上げた。
舌が自分の陰部を舐めている。不潔に思ったが、やがて何物とも知れない感覚が訪れ、手で口を押さえた。

「ん、んっ…兄、さん…だめ、っ…!」

濡れる感触。まさか漏らした訳ではあるまい。音を立てて舐められ、ルキアの羞恥心が煽られる。
舌は舐めるだけでは足りず、少しずつ中へ侵入してきた。背中をしならせ、謎の感覚に耐える。

「(…どれだけ我慢するつもりなんだろう)」

唇を噛みしめて手をぎゅっと握り、身体を震わせるルキア。何だか苛めたくなってしまう。
ある程度ルキアのそこが濡れてきたのを感じると、イヅルは再び指を差し込んだ。先ほどより滑らかに入る。だが動かすとまだ痛いかもしれない。
しかしイヅルにも我慢の限界がある。ごめんね、と心の中で謝り、そのまま指をぐっと奥まで進めた。
痛い、とルキアが小さく呻く。同じ世代では援助交際までしている子がいるというのに、こんなに初心で純情な子もいる。
大丈夫、大丈夫と囁きながら指を動かす。どんどん指先はぬめり、小さな割れ目からとろりと透明な汁が垂れる。
多分これでいい……。イヅルは喉を鳴らした。生憎、女の身体の構造は知識でしか知らない。まさかこれほど手間のかかるものだとは思わなかった。
やがて、ルキアの中がびくびくっと痙攣した。これが「達した」ということなのだろうか。

「大丈夫?」
「…へき」

赤い痕が点在する胸を上下させながら、消え入りそうな声でルキアは呟いた。その頬にはたくさんの涙が流れていた。それほど痛いのだろうか。

「やっぱり止める? 辛い?」

ルキアはふるふると首を横に振った。少々気が咎めるが、本人がそう言うのなら仕方ない。
イヅルは意を決して、ズボンと下着を脱いだ。誰かの前で自ら服を脱ぐのは初めてだ。しかもその初めてが妻の前とは。
下着が先端に擦れ、低く呻く。何もせずとも、イヅルのそれは硬くなっていた。普段、自分でする時は扱かなければ硬くならないのに。
ベッドが軋む。イヅルはそっとルキアの脚を広げ、己のそれを宛がう。ルキアがはっとした表情で天を仰いだ。
くちゅ、と水っぽい音がする。初めて触れた女のそこは熱く、柔らかかった。
上手く舌が回らない。性器とは反対に、からからに乾いた唇で問う。

「…いい?」
「……ああ」

返ってきたのはいつもの口調。安堵したイヅルはゆっくりとルキアの中へ侵入する。
中は狭い。肉壁がぴったりとイヅルのそれに張り付いてくる。

「ぁ、や、痛…っい」

そういえば最初は痛いと聞いていた。男のイヅルには分からない。中ほどまで進むと侵入を止めた。透明な滴りに鮮血が混じっている。

「大丈夫? 止める?」
「い…いっ……つらい、から早く…」

思わぬ催促に驚きつつも頷き、イヅルは腰を進めた。
ようやく全てを収めると、短く息を吐いた。一人では味わえない感触。気を抜くとすぐにでも出てしまいそうだ。
下から腕を伸ばされ、それに応える。唇を重ね手を繋ぎ指を絡め、あらゆるところで繋がる。合間に漏れる吐息すら惜しい。
動くよ、と囁いてイヅルはゆっくりと腰を動かし始める。始めは痛がっていたルキアも、次第に甘い鳴き声を上げる。

「堪えないで」

どうしても口を覆ってしまうらしいルキアの手を退かせて絡める。途端にあ、あっと喘ぎが大きくなる。
思わず口端で笑うと意地悪とでも言いたげな瞳で見つめられる。いつのまに彼女はそれほど女らしくなったのだろう。
解かれたルキアの中はとても気持ちが良く、イヅルを搾り取ろうとしているかのようにきゅうきゅうと締め付けていた。手とは異なる熱い感触に飛びそうになる理性を必死に繋ぎ止める。
やがてある箇所を突くと、またルキアの身体が震えた。
その痙攣はイヅルにも伝染した。

「っ、う…!」
「あ、あッ…!」

低く呻きながらイヅルはルキアの中に勢いよく精を吐き出した。ルキアの脚がイヅルの身体を捕まえる。
吐精が終わるまで、二人は暫く黙っていた。ぎゅっとシーツを掴んでいた手は弛緩して力が入らない。ひどく喉が乾く。
イヅルは呆然としていた。終わった後は何をすれば良いのか分からない。色々処理をしなければならなかったはずだが……身体が怠くてたまらない。

「――…兄さん」
「なに?」
「…気持ち良かった?」

ルキアが呟いた。

「うん…ルキアは? 痛かっただろう?」
「平気…兄さんにぎゅっとしてもらって、気持ち良かった」
「…そう」

頬を林檎のように赤くしながらルキアは答えた。その瞳はまだ潤んでいる。目の周辺には涙の痕が残っている。
そっとその痕を舐める。しょっぱいが、不思議と胸に温かな感情が溢れていく。名前を呼ばずとも満たされているのだ。

「愛してる」
「愛してる」

鸚鵡返しに睦言を交わし、二人はようやく結ばれた。