もう何度目だろう。
催促の声を上げるとキッチンから飛んでくる罵声。
お前も手伝えだの待っている立場のくせに偉そうなことを言うな、など。
だって、ボク不器用やし。そう返すと確実に更に怒られるので黙っておく。
ホットケーキが焼けるいい匂いがしたのはついさっき。
トイレに行くついでにこっそり覗くと、生クリームのもとをボウルに注いでいた。
……完成までもうちょっと。
暇つぶしにテレビのチャンネルを回していると、お呼び出しが掛かる。

「はいはい。何やの」
「…どうせ暇なのだからこれをしろ」

と、やや不機嫌そうな声で命じられたのは生クリームの元の入ったボウル。泡立て器が端に引っ掛けてある。
ボウルを受け取ったギンは、ふとルキアを見てにやりと笑う。

「頑張ったんやね」
「誰かさんが何もしないからな。あー、肩が凝った」
「せやったら揉んだろか」
「先にそっちをやれ。時間が経つと固まりにくくなるのだ」

溜め息混じりに言われ、ギンは渋々泡立て器を手にする。ルキアは冷蔵庫から苺のパックを取り出す。

「苺はいくつ並べるのだ」
「んー、十個」
「十個!?」
「ボクとキミで半分こやから」

ぶつぶつ言いながら、ルキアは苺を十個、洗ってヘタを取る。
「何故こんなところで優しいのだ」とか「妙に気を遣う奴だ」とか、聞いていて結構むず痒い言葉たちが耳に飛び込む。
……まるでボクが時々しか優しくないような言い方や。ボクはいつだって優しいで。
心の中で返しながら、ギンはボウルを渡す。
液体だった生クリームの元はすっかり、ふわっとしたきれいな生クリームになっている。
ルキアが驚いた。

「こんなもんでええ?」
「ああ。…器用なのだからもっとやる気を出せば良いのに」
「だってルキアちゃんの肩揉みたいしー?」

わきわき、とギンが両手を動かす。……やや卑猥に見えるのは何故だろう。だがルキアは黙っておく。

「もうボクの仕事終わり?」
「ああ。ありがとう」
「えー。ボクもっと傍におりたいー」
「だったらもっと早くから手伝う意思を見せぬか!」

だって面倒くさいのは嫌やもん。へらへら笑いながらギンは生クリームを指に取る。そっと口に入れると、結構美味しい。

「あ、美味しい」
「こら!」
「ほんまやって。食べてみ」

ほれ、と差し出された人差し指を、ルキアは躊躇いながら口に含む。
小さな歯が爪に当たり、柔らかな舌が指紋をなぞる。ルキアは余すことなく、生クリームを吸う。
むくりと起き上がる、ギンの悪戯心。

「な?」
「うむ、そうだな。やっぱり出来たては違うのだな……って、こら。あまり食べ――っ、おい!」

ギンは同じように生クリームを指に取ると、べったりとルキアの唇に塗る。
元からぷっくりとしている唇が、更に立体的になる。
それをなぞる、長い舌。

「…うん、やっぱり美味しいわ」

生クリームを舐め取るように、ギンは唇を吸う。ぐしゃりと苺が握り潰されるのを視界の端で見る。あれも、美味しそう。
こってりとした感触の中で、生温かい、人間の粘膜を探り当てる。

「っ、ん…ふ」

自分に比べれば遥かに短い、猫のような舌を求め、ギンは舌を伸ばす。
受け入れたいような、受け入れ難いような。そんな葛藤がルキアの顔に浮かぶ。
せやったら、酸欠状態に持っていったらええやろ。
ちゅう、とわざと大きな音を立てて、ギンは精一杯ルキアの呼吸を奪う。
ぱっと離すとぐらりと華奢な体がふらついた。咄嗟に腰を支えると、涙をたっぷり浮かべた紫色の瞳に睨まれる。

「きさま…」
「なに?」
「食べ物で、遊ぶな…!」
「遊んでなんかあらへんよ。ただちゅーしただけや」

それよりこれほんま美味しいわ、とギンはまた生クリームを手に取る。
そして、ルキアの首元に塗りつける。冷たい感触にびくりと体が震えた。
更にギンはルキアの服のボタンを外し、露わになった胸にも生クリームを塗る。

「あれー? ルキアちゃん、また下着付けてへんの?」
「うるさい…!」
「まあその方が楽やしな。ええか」
「おい、いい加減に…っん!」

べろり。鎖骨に舌が這う。薄い谷間にも。そして、先ほどのように飾りも吸う。細い腰がひくりと跳ねる。

「おぃ……ギン…っ!」
「ルキアちゃん、えろい。ちょっと舐めただけでこんなに立ってる」

つん、と飾りを指で突かれてルキアはまた声を漏らす。白い生クリームの下に、うっすらと桃色の飾りが透けている。
唾液で生クリームが流れてゆく。
いやいやするようにルキアは頭を振ったが、ギンはそのまま生クリームを舐め取る。

「…はい。綺麗になったで」
「ふざける、なよ…! だ、れのせいで…」
「せや。一回これしてみたかってん」

と、ルキアのシャツを剥ぎ取る。前のボタンを外してしまったので後ろから引っ張るだけで簡単に脱げてしまうのだ。
そして「こっちも脱いでしまおか」と、下のチェックのスカートも脱がしてしまう。
はい、完成。
ルキアの、苺を握り潰した鉄拳が飛んでくる。しかしそれをいとも容易く受け流し、ギンはルキアをテーブルに座らせる。

「たわけ! 何という恰好をさせるのだ…!」
「あんまり足開かん方がええけどなぁ。見えてまうよ?」
「ッ!」

俗に言う「裸エプロン」となったルキアは、ばっと足の谷間を押さえた。
しかしそこにギンの膝が割り込む。

「ルキアちゃん。それでええねんな?」
「…? 一体どういう意味だ…っ、ギンっ」

テーブルに浅く座らされ、僅かに突き出た下腹部に膝小僧がぐりぐりと当たる。そこはちょうど敏感な肉芽があるところ。直接的な刺激ではなく、もどかしい。
逃げようと腰を引くも、ギンががっしりと肩と腰を押さえているので難しい。むしろ、抵抗すると前へ前へ押し出されるのだ。
声を押し殺すルキアにギンが囁く。

「…あれ、ルキアちゃん。自分から押しつけてるやん。やっぱり気持ち良くなりたいんや?」
「ち、がぅ…あ、ぁっ…このッ」
「おかしいなぁ。ボク何もしてへんのに、ルキアちゃんのここ、びしょびしょや」
「ぃやあっ…!」

裾を押さえる手も離し、ルキアはギンの首にしがみついた。
ギンの言う通り、もはやルキアは自ら彼の膝に腰を擦りつけていた。慣らされた体はあっという間に快楽に膝を折る。
膝が湿っていくのを感じながら、ギンは一気にスパートを掛ける。
やがて、

「あ、あぁッん……!」

高い声と共に、ルキアはがっくりと力を失くす。テーブルにつぅ、と何かが広がる。
もう抵抗の意思はない。肩と腰から手を離したギンはルキアを抱え上げる。
急に体が浮いてルキアが足を動かしたが、ギンはそっと抱きしめる。

「そのままでええよ。ボクが動くから」

と、ルキアを再びテーブルへ。しかし今度は寝かせる。
ぐったりと弛緩した脚を広げてエプロンを捲る。ルキアのそこはすっかり、濡れている。
ギンはそっと耳許に唇を寄せる。ふっと息を吹き掛けると小さな喘ぎが聞こえた。
それを返事と受け取ったギンは、自分のそれを取り出した。
ぐちゅっ。熱く猛るそれに触れた肉芽が、物欲しそうにひくついている。思わず息を飲む。
ずぷっ。待ち兼ねた感触。

「あ、あぁ…っ――!」

仰け反った、ルキアの口端から涎が流れる。 ゆっくり、ギンは腰を進める。何とか、慣らさずとも入った。昨夜したおかげかもしれない。
ぎちぎちと締め付ける内壁にギンは息を詰まらせる。
……ルキアちゃんて、何回やっても、処女みたいやな。そう感想を述べると、少し不愉快そうな瞳がこちらを見る。
お前が、大きいのだ。はくはくと唇だけで呟かれた言葉にギンは満足そうに笑う。

「ほんなら、動くで」

ぐちゅっ。ちゅっ。存分に濡れたルキアのそこは滑らかにギンを悦ばせる。
少し狭いくらいの方が気持ちいい。ギンは快感を貪る。
それはルキアも同じだった。
ギンに処女を渡し、ずっと彼一人としか性交渉をしていないのだから、ギン以外の男を知らない。
その体はすっかりギンにフィットした、言わばオーダーメイドのようなものになっている。
この相手じゃないと、ダメ。口に出さずとも、甘い睦言を交わさずともそれは分かりきっている。

「ギ、ン…っあ、ぁっ! んんっ…」

ギンはルキアの唇を塞ぐ。まだ微かに生クリームの味がする。
せやったら、とギンはルキアの片手を舐めて、口付けを落とす。
今度は苺の味。
…ほら、やっぱり美味しい。少し酸っぱいけれど。

「もっと、ぎゅって…ギン…ッ」
「甘えん坊やなあ、ほんま…」

普段は憎まれ口しか叩かない癖に。でもそれにも愛情が含まれていることをもちろん知っている。
こういう時だけ素直になるやなんて反則やろ……! ギンは歯を食いしばる。

「もぅ、だめ…ッいくっいっちゃぅ…!」

ひくん、と収縮する内壁にギンは放出を促される。

「――――ッ」

最後の高い、絶頂の声を聞きながらギンはルキアの体内に己を解き放つ。
……終わった後も、ルキアは普段より甘えん坊のままだ。

「ギン、」
「なに?」
「キス、して」
「はいはい」

同じ返事だが、先ほどよりも愛情がたっぷり詰まっている。
もう、クリスマスケーキなんかどうでもええわ。
ギンはルキアを抱きしめながら思う。
だって、ルキアの体内でまた起立していたから――。

「ルキアちゃん、めっちゃかわええ。世界で一番や」









(苺と生クリームの味がする君が一番おいしい)