「あれ、珍しいですね。隊長がそんなものを飲むなんて」

吉良が声をかける。ギンがコップで白い液体を飲んでいたからだ。
それは現世の飲み物だ。とても甘くて美味しいのだが、原液のままでは濃すぎるので水などで薄めて飲むものだ。
その甘さは吉良も知っている。一度だけ口にしたことがあるからだ。

「ああ。討伐ついでに遊びに行ってきたんよ」
「そうなんですか」
「現世っていつ行っても楽しいとこやねぇ。黒崎くんが羨ましいわ」

そうですね、と吉良が苦笑する。ギンが現世で遊んでいる間、尸魂界で職務を果たしているのは彼なのだから。
だが、遊んでいる暇があるなら早く帰って来てください、なんて言える訳がない。それに、その時はきちんと仕事をしていたようだから許せないこともない。

「あ、そういえば。これ知っとる?」
「え?」

呼ばれて行くと、ギンが指で何かを摘んでいる。丸い輪っかのようだが……。

「何ですか?」
「これな、現世の避妊具やねん」
「ひにっ…!」

吉良は口を押さえた。こんな昼間に口にするような言葉ではないと思ったからだ。その様子を見てギンはけらけら笑う。

「これを、こうしたら……ほら。これを嵌めるねん」
「あ、あの…それをどこで…?」
「ホテル街ってとこや。要は男女が昼間から『ご休憩』をするところ。そこの販売機で売っとったんや」
「…そうですか」

もう吉良は何も言えなかった。どうしてそんなところにギンが行ったのかも、何故買ったのかも訊けなかった。
しかしギンはご機嫌な様子で部下苛めに勤しんだ。

「(……今思い出しても勃つわ)」




その日、ギンはちゃんと仕事をしていた。
ある管轄を担当していた死神から、とてもではないが相手にできない虚がいると連絡が入った。彼は上位席官だったため、誰を現世に派遣するかとささやかな会議が行われた。
生憎、腕の立つ死神は皆出払っていた。どうしようかと焦りだした頃、ひょっこりとギンが顔を出した。
話を聞いたギンはほんならボクが行くわ、と手を上げた。隊長格に魂葬してもらうまでではないと皆は断ったが、人がおらず、現世での隊員の安否も気遣われる。
数分後、ギンは穿開門の前で地獄蝶と一緒に開門を待っていた。
そしてあっという間に断界を通過し、青い空に降り立つ。快晴だ。
あぁ、ええ天気やなぁとのんびりする間もなく、ギンは瞬歩で報告された場所に向かう。
虚自体はこれといって敵ではなかった。怪我をしている隊員に関しては救護を要請した。すぐに手助けの為に隊員がやって来るだろう。
何度も頭を下げる隊員の姿を見ながらギンは退屈を感じていた。

「(どうせやからどっか遊びに……ん!)」

ギンはくるりと方向転換をした。よく知る霊圧を感じる。ここからそう遠くない距離だ。
ボクちょっと用事あるから、と一言置いてギンは駆け出す。
音もなく、風すらもなく。すとん、と着地した草地は柔らかな緑の匂いに包まれていた。

「こんにちはぁ、ルキアちゃん」
「ブッ」

小さな口から白い液体が勢いよく噴き出た。

「あらあら、零したらあかんやろ。お兄様に叱られるで?」
「…ど、どうしてあなたが、ここに」
「お仕事や、お仕事。ボクもたまには虚討伐くらいするで?」

そうですか、とルキアは口元を拭う。その手には缶が握られている。

「それ何?」
「現世の飲み物です」
「どんな味がするん?」
「…甘いです」
「ふーん」

ギンはルキアの隣に腰を下ろした。ぎょっとした顔でルキアが距離を取る。

「なんで逃げるん」
「逃げてなどおりませぬ……暑い、ので」

暑い? ギンはきょとんとした。そういえば背中が少し汗ばんでいる。今日は暑いのか。彼女のところに行くので必死で気付かなかった。
ルキアのうなじにも僅かに玉のような汗が滲んでいる。彼女も討伐だろう。

「暑いからそれ飲んどるん?」
「はい」
「ええなぁ。一口ちょうだい」
「えっ」

それは明らかに嫌だという声音だった。ほんまキミはボクが嫌いやねんなぁ。しかしこれくらいなら慣れている。

「市丸隊長には甘過ぎると思いますが」
「ええよ別に」
「ですが、既に私が口をつけておりますし、」
「流魂街の出身やで、ボク。今更そないなん気にせぇへんよ」

そこまで言うと彼女は何も言えなくなる。そして止めの一言。

「ルキアちゃんは逆らうんが好きやねんなぁ。うん、分かったわ。帰ったら言うとくわ、お兄様に」

びくりと小さな背中が震えた。あーあ、可哀想な子。縛られて縛られて満足に動くこともできないんやねぇ。
手を出すと缶が手渡される。白地に青い水玉模様が爽やかだ。缶を傾けると甘い液体が喉を潤す。ああ、確かに甘い。

「ありがとうな、ルキアちゃん」
「…いえ」
「せやかて、これ逆に喉渇くんと違う? それくらい甘いで? ルキアちゃんは甘いもん好きやねんなぁ」
「はい」

ルキアは呟く。目も合わさない。……そんなに嫌いか。ギンの中の悪戯心が牙を向く。

「ルキアちゃん、ここ濡れてるで」
「えっ…」

ずっと縮こまらせていた身体がすっと広がる。その瞬間をギンは逃さない。
まだ中身の入っている缶をルキアに向ける。

「ッ!?」
「あ、ごめん。手ぇ滑ってしもた」

キッとルキアがギンを睨む。その睨みも可愛らしい。
ギンがうっかり飲み物を零してしまい、ルキアの襟はぐっしょりと濡れてしまった。

「義骸持ってるやろ? 暫くそれ入っとったら?」
「…何故ですか」
「着替えな気持ち悪いやろ?」

これが尸魂街ならすぐに詰所に戻られるだろうがここは現世だ。着替える前は義骸に入っておいた方がまだ居心地いいはずだ。
どこかでシャワーを浴びればすっきりするだろう。ギンはそう提案したがルキアはぎゅっと拳を握ったまま躊躇う。一護の家に行こうかと思ったが、ギンに場所を知られたくない。

「せや、現世にもあるんやろ? 繁華街って」
「はい」
「そこ行ったら風呂あるやろ」

「風呂」が何を意味するのかルキアには分からなかった。しかし知らないということがばれてしまうと恥をかく。

「ええ、まあ」
「ここから遠い?」
「いえ、それほど遠くではありません」
「ほんなら行こうや。ボク外で待っといたるし」

えっ、とルキアが考える暇もなく、ギンは手を取って立ち上がる。そして風景が途切れ途切れに瞳に映る。腰を支えてくれているのは有難いが、相手がギンだとどうも不愉快だ。
やがて、住宅街や公園が高いビル、大きな広告に取ってかわる。人も多い。
人通りの少ない路地に着くと、ギンは足を止めるとルキアを離す。
そして、ボンッと弾ける音がしてギンは死覇装からスーツに変わる。黒のよくある一般的なスーツである。ネクタイまで付いているので少々驚く。
ほら、と促されてルキアも渋々義骸に入る。空座高校の制服だ。
スーツ姿の成人男性と制服姿の女の子。何だか危ない香りがする。柄にもなく興奮して暑くなり、ギンはネクタイを緩める。
二人は適当に歩いた。ルキアは黙々と付いてくる。どんな設備がいいとかこんな建物がいいとかも言わないので、今のところギンが主導権を握っている。
……きっと知らんねんやろうなぁ。ルキアの思考はすっかり筒抜けだった。

「よし、ここにしよ」

言われてルキアは顔を上げると、驚いた。まさに、城。そびえ立つ白亜の宮殿。晴天をぶち壊すほどの大きな看板に面食らう。早う、と呼ばれて早足で付いて行く。
中には僅かな照明があるが薄暗い。カウンターらしきものもあるが店員の顔は見えない。カウンター上には長細いパネルが埋め込まれている。

「どこでもええやんな?」
「えっ、あ、はい」

ギンが何かの番号を告げる。するとカウンターの小さなガラス戸から鍵が出てくる。魔法みたいに。
ちゃり、ちゃりっとギンが軽やかに鍵を回す。エレベーターに乗り込んでも二人は無言だった。元からそれほど親しい訳ではない。
上がって三階。柔らかな絨毯に絨毯コツコツと革靴の上質な音が廊下に響く。かちゃりと鍵を開けると室内が見えた。
中も下と同じく薄暗い。招き入れられ、ルキアは足を踏み入れる。大きなベッドがある。テレビや冷蔵庫もある。そしてガラスで仕切られた浴室が――。
ルキアはぞくりと悪寒が走った。何だか私は嫌なところに来てしまった気がする。

「ほら、身体洗ってき。気持ち悪いやろ」

あのカーテン引いたらええからとギンが優しく言う。確かに気持ち悪い。さっさと浴びて帰ろう。悪寒を無理矢理押し込めてルキアは浴室に向かう。
言われた通りにカーテンを引く。そこで初めて落ち着いた。彼とこれほど長く一緒にいたのは初めてだ。息が詰まって仕方がない。
シャワーのコックを捻ると温い湯が出る。頭からそれを浴びながらルキアは溜め息を吐いた。

「(さて……どないしよ)」

予想以上にとんとん拍子に進む悪戯にギンはほくそ笑む。どれだけあの子は純粋なんやろう。連れ込み宿のことも知らんやなんて……。
とりあえず、手を付けておく。ギンはネクタイを外してベッドに放り投げる。一応布団の上で抱くのだから悪くはない。
靴を脱いで上着も放り投げる。暑い。どうしようもなく興奮する。
浴室のカーテン越しに影が見える。凹凸は少ないがきれいな身体である。
普段、触れるどころか近寄ることすら許されない人。それが今、すぐ目の前にいる。
やがて浴室のカーテンが開いた。備え付けのタオルを首にかけ、シャツとスカートを身に付けたルキアが出てくる。

「気持ちよかった?」
「はい」
「良かった。ごめんなぁ、ほんまに」

ギンが謝るとルキアは軽く頭を下げる。そしてギンと背中合わせに、ベッドの端に腰を下ろす。

「髪の毛まだ濡れとるね」
「今乾かします」
「ええよゆっくりで。女の子は時間かかるもんや」

言葉は優しい。しかし行動は危ない。
ギンはルキアの背中を凝視する。体を拭いてすぐにシャツを着たのだろう、まだ汗が止まっていない。僅かに下着が透ける。

「ルキアちゃんはいっつもあないなやつ飲んでんの?」
「お茶の時もあります」
「あとは……お汁粉とかも好きやろ」
「はい」
「今度食べに行こや。美味しいとこ知ってんねん」

ルキアが振り向いた。

「市丸隊長もお好きなのですか」
「うん。甘いもんは全般的に好きやで」

自分と共通点を見つけられて嬉しいのか、僅かにルキアの表情が和らいだ。その瞬間、ギンは手首を掴んだ。

「っ、市」
「ほんま無防備やなぁ、キミは」

ギンは掴んだ手首を引っ張ってルキアを引き寄せ、放り投げたネクタイであっという間に手の自由を奪う。

「な…っ!」
「連れ込み宿も知らんやなんて、キミどれだけ純情なんや。まあたっぷり可愛いがったるわ」
「だ、誰が貴様などに…!」
「言葉遣いには気をつけなあかんよ? お兄様に厳しい言われてるやろ?」
「貴様には関係ないだろうっ!」
「関係あるよ。もしかしたら、キミはボクの奥さんになるかもしれへんからなぁ」

ルキアはもがくのを止めた。少しずつ表情が暗くなってゆく。

「奥…さん?」
「もしも、の話やけど。朽木家の御当主様はキミが知らんところで色々悩んではる。キミを誰のところに嫁にやろうか、て。妙なところにやったらいらん弱みになるし、名前に傷が付く。
 かといって幼馴染の野良犬には勿体ない。ある程度の地位があって、力もあって、そこそこ使えて……」
「兄様は、そんなことを考えるような御方ではない!」
「へぇ。碌に口もきかへんのに考えてることは分かるんや。すごいねぇ。それとも、毎晩寝物語でもするん?」
「貴様っ!」

ルキアの手がまたもがく。しかしあんな細腕では横っ面を引っ叩くことすら難しい。ぐいと更に強く結び目を押さえてしまえば尚更動けない。

「ボク何にも言うてへんよ。ルキアちゃんて純真無垢に見えて結構色々やってるんと違う? こうやって嫌がるんも、躾けられたからやろ?」
「ふざけるな! 貴様であればどんな女でも嫌がるであろう! この…っ」
「んー? どないしたん? ボクが何やて?」

ベッドが軋む。ギンは膝でルキアの脚の間に割り込む。膝を立てて抗えばいいのに、と少しつまらなく思う。膝を立てれば下着が見えることを分かっているからだろうか。
見下ろした身体は小さい。布団に消え入りそうだ。泣きそうで泣かない。いやもしかすると泣けないかもしれない。嗚呼なんと可愛いことだろう。

「あかんなぁ、ルキアちゃん。口の悪い子は怒られるで」

自分でも気色の悪いくらいの猫撫で声で言う。もうルキアは一言も話さなくなった。それはそれでつまらない。

「ほら、ボクのことは何て呼ぶん?」
「――……市丸、隊長」
「うん、そやな。もう貴様なんて呼んだらあかんで。ボクは心広いから許したるけど」

ギンは屈んだ。奪った唇はあまりに小さく、まだ咲かない花の蕾のように柔らかかった。
ルキアは身体を強張らせる。ぎゅっと目を閉じる。逃げたいのに逃げられない。不安と緊張と焦りがごちゃまぜになって現れる。
舌を入れようとして、閉じたままの唇を無理矢理開かせる。唾液と舌が絡み合う、深い口付け。ルキアはすぐに酸欠状態になった。
ぼーっとするルキアの、シャツのボタンを外していく。薄い胸。未だ発展途上であろう身体は白く、汚れていない。
シャツの前を肌蹴、どこに痕を残そうかふと考える。

「なあ、お風呂入ったらまずどこ洗う?」
「……肩、です」
「ん、分かった」

答えの通り、ギンはルキアの左肩に唇を押しつける。強く吸って離すと赤黒い痕が付く。それを同じく右肩にも行う。
ひっと上ずった声が聞こえる。その怯えた声が聞きたくてもっと吸う。
ルキアの両肩は染料に染められたかのように鮮やかに、毒々しい色に染まる。胸元や首筋に残さないのはせめてもの情けだ。

「じゃあ腰上げて」

一言命令するだけでルキアの身体は面白いようにすぐ動く。腰を上げさせるとギンは片手を背中に回して下着を取る。肩からぶら下がるだけとなったそれは何の意味もなさない。
純粋さを体現したかのような純白の下着の下から、淡い桃色の飾りが顔を現す。指でそっと押してみる。柔らかい。赤ん坊の尻のようだ。
今度は軽く摘んでみる。僅かに爪先が動いた。感じてはいるようだ。指先で、引っ掻く。押し潰す。抓る。散々弄るときちんと飾りは硬くなった。
声を出さないあたり、本格的にまずいかもしれない。それとも「感じること」を分かっていないのか。
下着を押し上げてギンは飾りを口に含んだ。

「やっ!」

初めてそれらしい声が聞けた。そのまま舌で舐めてみる。

「っ、市丸隊長…!」

嫌、とまた言うのか。思わず歯で強く噛む。途端にルキアは足をバタつかせて逃げようとする。

「い、ったい! 離して! いやぁ…っ!」

言われた通りに離す。初々しかった飾りはすっかり赤くなっていた。少しでも触ると出血しそうだ。まるで雪の上に落ちた椿のようや。そんな詩的な表現をふと思いつく。
そうだ。冬の椿には雪が似合う。
ギンは起き上がってズボンのチャックを下ろす。何をする気なのかとルキアが大きく目を見開く。
下着から取り出されたのはギンのそれだ。

「何や、どないしたん」

思わず顔を背けたルキアにギンが言う。ただし気遣うのは口だけ。ルキアを跨いでぐいっと口を抉じ開けさせると、それを無理矢理突っ込んだ。

「んッ!」
「ほら、頑張って。これくらい出来るやろ」

ふざけるな、と怒鳴りたそうにルキアは下から睨む。しかし軽く腰を振って動かすとまた苦しそうな声を上げる。
まだ柔らかいとはいえ、突如生温くて細長いものが喉の奥まで入ってきたら誰だって驚く。ましてやそれが大嫌いな男のそれだとしたら受け入れがたい。
出来るやろと言われてもルキアは意味が分からなかった。噎せてくぐもった咳をするだけだ。
するとギンは小さく舌打ちをしてまた腰を揺さぶる。

「ん! んんーッぅ…!」
「やっぱり狭いな……なかなかや」

微かに喜色が滲む声。動かす度にベルトが音を立てる。
やがてギンのそれは口内で大きくなり始める。気付いたルキアは目に涙を浮かべる。

「やっと気付いたんか。おっそ」

喉を圧迫するようにそれはどんどん硬くなっていく。

「あ、もう……っ!」

ビクン、と痙攣してそれは弾けた。途端にどろっとしたものが溢れて流れ込む。何度も痙攣して、ギンはずるりとそれを抜いた。

「けほっ! かっ…!」
「見せてみ」

噎せるルキアを起こしてギンは口を観察した。血色のよいピンク色の口内に白い粘着質な液体が溜まっている。にやりとギンは笑う。

「久々やからようけ出たな。それ、飲んで」
「の…!?」
「飲め」

がちんと無理矢理顎を閉じさせられてルキアは顎に痛みを覚える。何だかよく分からないが苦い。飲めと言われてもどろっとしているからなかなか飲み込めない。
しかしギンはそこで律儀に、ルキアが飲み下すまで見守った。喉がこくん、こくんと何度も動いてからまた口を開けさせる。全て飲み下したと確認するとまたベッドに押し倒す。
僅かに口端に残った白濁を指で取るとそれを下へ持っていく。次に何が起こるのか、ルキアは予想するのも諦めた。
ギンは脚を持ち上げると白濁を秘所に塗り込む。

「あっ!」
「結構濡れてるやん。無理矢理される方が燃えるって聞くし、ルキアちゃんもそうやってんなぁ」
「嫌っ…!」

ゆっくりと細長い指が入り込んでくる。もちろん痛い。抵抗しようにもそんな気力はもうない。
ぐちゅ、ぐちゅっと自分でも聞いたことのない音が下から聞こえる。不快な感触。けれど身体の最奥がじんじんと熱い。なぜ、なぜ。あの白い液体を飲んだせいか。

「どないしようかなー。慣らさん方がええかなー」
「っ!?」

ルキアは悟った。慣らした方がいいに決まっている。にやにや笑いながらこの男はさりげなく選択肢を提示している。
――甘えてみれば、いい方向にいくかも。けれどそれを矜持が邪魔をする。甘えるということはこの男に媚びを売るということだ。たとえ一時的であろうと、こんな奴に売りたくなどない!
葛藤するルキアをよそにギンは指を二本に増やす。

「いっ…!」
「二本でこんなんやもんなぁ。噛み千切られとうないし、一応慣らそか」

先ほどに比べてハイペースでギンは指を動かす。それに伴って、最奥の熱はどんどん上がる。
堪えようとしても堪え切れない、声が出る。

「ん、ぁっ…はっ」

ぐちゅ、ずぷっと音も更に濡れていることを感じさせる。じわじわと何かが迫ってきている。

「あ、ぁ! やっ…だ! いやぁっ!」

今度は指が三本に増える。

「だめ! な、んッ……か、あぁっ――!」

ぎゅっと指を締め付け、ルキアの身体は痙攣した。じわっと広がる温かい感覚。
ギンが満足そうに笑う。

「すごいなぁ、ルキアちゃん。そないにボクの指良かったん?」
「は……」
「一回イッたし、もうええやろ」

指を引き抜くとギンはルキアの脚を掴んで秘所を広げた。外気に晒されてひやりと冷たい。

「締まり良さそうやもんなぁ、キミ。じゃ、いただきます」

太ももをがっちりと掴んでギンはルキアを貫いた。太い楔が未熟な中を押し広げる。

「あ、あぁッ! 痛いッ! いたい…!」
「ボクのん大きいやろ? 慣れたら気持ちようなるわ」
「いや…ぁ!」

嫌いなのに。嫌なのに。頭では痛みと嫌悪感がごっちゃになっているのに身体は違っていた。
互いの体液に塗れた熱い肉と肉が、卑猥な音を立てながらぶつかり合う。獣のような声が出る。脚がギンの腰を掴まえる。腕が彼を抱き締める。
ギンが何かを呟く。けれどそれが何なのか分からない。

「――――?」
「……!」
「…? ………」
「――あッ」

またギンが痙攣を起こす。そしてルキアも声を上げる。
口に注ぎ込まれたあの液体が今度は身体に直接注ぎ込まれる。腹部が熱い。
痛い。でも気持ちいい。痛い。気持ちいい。

「――なんや、キミ処女やってんな」

嘲笑うかのような声を最後にルキアは意識を手放した。




「で、これやねんけど、ごくごくたまーに破れてまうねんて」
「えっ!? それでは意味がないのでは…」
「せやんなぁ。でもボクらのやつよりずっと出来てるで、これ」

こんな薄いゴムが何の意味を示すんやろう。後で水入れて遊ぼ。ギンは輪っかに口を付けて空気を押しこむ。
だが女からすれば大事なものだろう。望まぬ妊娠をして一生を棒に振るのを防ぐ盾。

「(まあ出来てもうたらそれだけや)」




力を失くしたそれを引き抜き、ギンは上着のポケットから伝令神機を取り出した。そしてルキアに向けてパシャリ。

「あーあ、可哀想に。出来てしもたら一大事やなぁ」

避妊具を付けずに強姦したのは誰だ。張本人のくせに他人事のようにギンは笑う。
しかしまさか処女だったとは思わなかった。既に白哉の手が付いていると思っていたので何やら拍子抜けした。
ギンはルキアの秘所に指を近付けた。己が発射した白濁を免れた、ごく僅かな鮮血が付着している。
厳格なあの家のことだから嫁入り前の娘が処女を奪われたと知ったらさぞ五月蠅かろう。
人差し指を舐める。汗の酸っぱさに混じって鉄の味がする。

「美味しいわ、ルキアちゃん。大好きや」

それからギンは失神したままのルキアを全裸にして浴室に向かった。せめて綺麗にしてやろうと思ったのだ。
浴室には俗に言うすけべ椅子というものがあった。そこにルキアを座らせ、下の窪みから手を入れてまた秘所を触る。
そこは二人の体液でぐしょぐしょだ。指を突っ込んで掻き回すと奥から白濁が流れ出てくる。
勿体ないなぁ…。そう思いながらギンはちゃんと掻き出してやる。

「一緒になったら毎日一杯したらええ。せやろ?」
「――…っ」

ルキアの眉がぴくりと動いた。気を取り戻しつつあるようだ。ギンはまた悪戯心が湧いてきた。




「イヅルもやる時はちゃんと避妊せなあかんで? 雛森ちゃん孕ませたら藍染隊長が五月蠅いから」
「だ、誰がそんな…!」

赤面して必死に反論する吉良を笑いながらギンは、膨らまなかった避妊具の先端部分にぷつぷつと穴を開けていた。

「(ほんまあの子は騙し甲斐があるわ)」