暇だ。
欠伸を噛み殺しもせずにルキアは思う。
今晩は非番だった。しかし急遽呼び出され、詰所に向かった。
しかし緊急事態も事故も起きず、暇を持て余している。
じっと座っていると、舟を漕ぐまでには至らないが瞼が重い。誰かが淹れてくれた茶を啜る。その温かさがますます眠気を誘う。

「はあー……っぶ!?」

突如、何者かがルキアの口を押さえた。気を抜きすぎたのだ。
有らん限りの力で抗いながら顔を見る。
ぱたり、とルキアの腕が動きを止めた。

「……何だ貴様か」
「また貴様言うたな。隊長って呼ばんとあかんやろ」

まだ死覇装姿のギンがルキアを背後から抱き締めていた。思わず脱力したルキアを支える。

「何故ここにいる」
「キミに会いに来たに決まってるやん」

普段なら軽く受け流す軽口にも、今は向かう気力がない。

「はあー……」
「溜め息吐かんといてぇな。仕事終わってきてんで」
「そうかー……」
「えらい眠たそうやね」
「むー……」

胡座をかいているギンに甘えながらルキアはぱちぱちと瞬きをした。

「どうせ何も起きへんねんから寝といたらええやん」
「そうはいかぬのだー」
「ボク起きといたるから寝ぇや」
「……分かった」

最後の一言だけははっきりしていた。
ルキアはギンにもたれかかって瞼を閉じると、すやすやと安らかな寝息を立て始めたのだ。
これにギンは焦る。

「えっ? ほんまに寝るん!?」

己に身を預けるルキアを軽く揺さぶるが起きない。頬を指で突いたり手を握ってみたりするが全く無反応だ。

「(あらら。ほんまに寝てもうたわ。ボクを一人置いて寝るやなんてひどいわぁ)」

腹立ち紛れに軽く頬を引っ張る。よほど眠たかったのか。
ギンは眠ったルキアを抱えて宿直を務めることになった。

「(宿直なんて久々やなぁ。まあ昔から仕事らしい仕事なんてしてへんけど)」

宿直は討伐に出ている隊からの報告や連絡、瀞霊廷内の見回りや監視なども行う。
死神になって護廷十三隊に入隊した時から宿直は何度も経験したが、特にこれといって仕事らしい仕事をしたことがない。基本的には寝ずの番であるが交代で睡眠を取り、詰所で待機する。
だがギンは雑誌を持ち込んでくつろいでいた。叱られはしない。藍染が手塩にかけて育てているのを皆知っているからだ。

「(あの時はアホみたいなん読んどったなぁ。ルキアちゃんに知られたら確実に怒られるわ…)」

くわばらくわばらと呟きながらギンは腕の中の恋人を見た。すーすーと気持ちよさそうに眠っている。
ギンを「貴様」呼ばわりし、時には顎で使うルキア。確かに時々は腹が立つ時がある。けれどそれも愛しい一部分だ。好きだから言うことを聞いてやるし、傍にいるのだ。一日とて会わなかった日はない。

「(……人の気も知らんで)」

ギンはそろりとルキアの体を撫でた。何だか痩せた気がする。またどこか食事に連れて行こう。

「ルキアちゃん」

ちろり、とうなじを舐める。滑らかな肌の感触が堪らない。
どうしようもない、激しい熱が体の奥からくすぶり始める。
唇の形をなぞり、死覇装に手を差し込む。すっと差し込んだ手は微かなふくらみに触れる。軽く揉む。目を覚ますかと反応を窺いながら、揉みしだく。
幸い起きる様子はない。首に赤い花を咲かせ、ギンはそのまま帯に手を伸ばす。死覇装を脱がすと蝋燭の灯火に裸体が照らされ、陰影を部屋に映す。
指と衣擦れで固くなった胸の飾りが可愛らしい。肌は白く、いつ見ても惚れ惚れする美しさだ。

「ルキアちゃん…好きや」

普段、愛を囁けば彼女は恥ずかしがって顔を背ける。静かに聞いてくれるのは情事の後かこうして眠っている時だけ。
…起きたら謝ったらええやろ。
ギンはルキアを横にすると、そっと脚を持ち上げてそこに唇を近付けた。優しく口付けて舐め上げる。

「っ、ん」

小さな声に一瞬動きを止めるが、身動きもしないのでそのまま舌でゆっくりと中を解していく。
次第にじわじわと溢れだす愛液を啜り、追い詰めていく。

「ん、んっ…」

ルキアの頬が赤く色づいていく。眠っていても感じるらしい。ギンは目を細めた。愛しい愛しい子。嗚呼悦ばせてやりたい。
ギンは静かに、けれど大きく吸い上げた。ひく、とルキアの中が軽く痙攣する。もぞもぞと体が動いてルキアははたと目を覚ます。

「…?」
「おはよう、ルキアちゃん」
「ギン……は…?」

瞬きを繰り返すが状況を飲み込めないようだ。猫のように目をごしごしと擦る。ギンの中の悪戯心が牙を向く。あどけない顔が堪らない。
本当はもっと時間をかけて気持ち良くさせたかったが起きてしまったら仕方ない。
唇を重ねて関心を逸らしながらギンは己も帯を解いた。
ギンのそこは既に起立していた。数日前に致したばかりだが情欲はとめどなく溢れてくる。淫靡な恋人の姿を前にそれは先走りを垂らしている。

「ギ、ン…っいきなり何だ…」
「目ぇ覚めること、しよか」
「は…?」

一応腕でルキアの肩を押さえ、ギンはルキアのそこに欲望を突き立てた。ぐっとルキアは唇を噛み締める。

「っ、い…何、いきなりぃ…」
「寝顔見とったら我慢できへんかってん。ごめんな」
「たわけ…っ!」

ゆっくりと全身を収めてルキアは短く息を吐いた。軽くギンの腕を叩いて退かせる。その目には非難の色が浮かんでいた。

「ごめんて言うてるやんー…それに明日休みやろ?」
「何がそれに明日休みやろ、だ…莫迦者」
「せやかてルキアちゃんかて反応してたやん。せやからこうなってるんやろ?」

軽く動いてやるとぐちゅっと音がした。さっとルキアの頬が赤く染まる。ほらほら、と何度も揺さぶってやると口に手を当てて堪える。

「最後までやるで?」
「…さっさとしろ。夜が明けたら困る」

素直やないなぁ。含み笑いをしながらギンは激しく腰を動かす。待っていた絡みつくような感覚。狭い肉壁で搾り取ろうとするその感触が気持ち良い。
声を押し殺そうと手を噛むルキア。そうだ今は押し殺してもらえる方がいい。はしたない声を上げて、べったりと甘えてもらうのは家でやろう。

「ん、っ…! ふぅ…」
「気にしとるん? 誰か来るかもしれへんて」
「ば、かなこと…をっ!」

ルキアの長い睫毛が震える。ぎゅっと死覇装を握って耐え忍ぶ姿はそそられる。ああもう苛めたい。
動きながらギンはルキアの一番敏感な芽を摘んだ。

「あっ!」
「大きい声出てもうたね」

からかうと、この莫迦者! とでも言いたげにルキアはキッと睨んだがそんなものはギンにとって屁でもない。肉芽を爪で挟んで押し潰してやる。
びくっとルキアの身体が大きく震えた。手だけでは足りずに手首まで噛む。つうと目尻に涙が溜まる。
よしよしと頭を撫でながらご機嫌のギンは呟いた。

「ルキアちゃん…飲んでくれへん?」
「え…」

放心状態のルキアが抗うまでもなくギンはルキアの体内からそれを抜くと、ルキアの顔に近付けた。そして唇をこじ開けると突っ込んだ。

「んんっ…」
「こうせぇへんとキミ、きれいに帰られへんやろ」

小さな体を跨いで見降ろすのは少々悪い気がするが仕方ない。そう、仕方がない。中に出してしまったら処理が面倒だ。決して顔にかけたいとかそういう訳ではない。
しょっぱい味に次いで苦い男の味が口内に広がる。

「ん、んんっ! うっ…!」

どろっとした液体が喉に流れ込んで噎せる。しかし出し終わるまで口から抜く訳にはいかない。髪を梳くギンの手を掴みながら、ルキアは耐えた。
硬さを失ったそれをちゅぽん、と引き抜くと口端から白濁が垂れた。

「ごめんなぁ、ほんまに」

懐紙でそれを拭いながらギンは言った。ルキアが何とか嚥下するとまた頭を撫でる。お茶を飲ませてくれるところから、本当に申し訳ないとは思っているようだ。
背中が痛いルキアを起こして簡単な処理をするとさっと死覇装を着せる。その間、ルキアは一言も口をきかなかった。口を開く気力もなかったのかもしれない。
蝋燭が随分と小さくなっていた。障子の向こうは青白い。もう夜が明け始めている。

「…ほんならボクもう行くわ。ほなね」
「おい」

何? ギンが顔を近付けるとルキアが襟を掴んで開いた。そして唇を押し付け、吸う。おまけに軽く噛む。

「え、痛いルキアちゃん。何なん」
「これくらいで音を上げるな、たわけ。私の方が何倍も痛かったわ」

溜め息混じりにルキアは言った。鎖骨の辺りがじんじんと痛む。触れてみるとうっすら赤いものが指の腹に付いた。

「……ほんまごめんなさい」

分かればよろしい、とルキアはさっさとギンを送り出した。扉から出て行くギンにルキアが言う。

「私が帰るまで治すなよ」

ということは、家に来てくれるのだろうか。
うん、と頷いてギンはルキアを抱き締めた。これだからこの子は堪らない。